地形を生かした建築物の配置の美しさは見事
武士が政権を獲得した鎌倉時代の1278年に円覚寺の創建が始まった。 その頃、最も強い権力を持っていた8代目北条時宗(ほうじょう ときむね)は中国の僧、無学祖元(むがく そげん)を招き円覚寺を開山した。 禅宗を世に広めるため、また、国家の鎮護、蒙古襲来による戦没者を弔うために建立を発願したのが始まりである。ここでは、日本の蒙古襲来における戦いの犠牲者を、武士だけでなく、モンゴルの兵士も分け隔てなく弔っている。 谷戸の地形を生かして作られた三門を入ると、本尊(仏像)を祀る仏殿や大方丈に向かって緩やかに坂がせりあがっていく。その建築物の配置の美しさは見事。壮大な空間の広がりを感じることができるだろう。 鎌倉時代に多く支持された禅宗であるが、円覚寺の大きさから時の権力者北条氏の財源が豊かであったことを感じさせる。広い敷地内には、修行僧のための道場、在家のための禅道場、国宝の舎利殿や洪鐘(おおがね)などがあり、歴史的価値の高い建築物が多く並ぶ。鎌倉時代の文化や美術は、武士文化による写実的かつ質実剛健が好まれたが、簡素ながら美しい造形を持つ古寺の質感と、中世の香りが残る円覚寺の魅力を堪能してほしい。 春の桜も美しいが、晩秋のもみじの季節には、ひなびた古刹に美しく染まった葉が彩りを添え、一層見事な風景を作り出す。 北鎌倉駅に近く、アクセスも便利。円覚寺は広いため拝観は時間を要するが、ゆったりと中世日本の建築物や文化に触れる旅を楽しみたい。