白い鹿の伝説が残る霊験高い毛越寺
慈覚大師円仁が東北を巡る旅の途中でこの地に差し掛かった際、濃霧に覆われ立ち行かなくなった。足元に落ちている白い毛に気づき、導かれていくと、そこに白い鹿がうずくまっていた。鹿が霧の向こうへ消えると白髪の老人が現れ、この地に寺の建立を預言し姿を消したという開山にまつわる伝説を持つ。850年、円仁による開山の後は、東北一帯を支配していた豪族奥州藤原氏二代目基衡(もとひら)、三代目秀衡(ひでひら)により多くの伽藍が造営されたが、藤原氏の滅亡後、火災によりすべての建物を焼失した。しかし「大泉が池」を中心とした「浄土庭園」は今なお当時の姿をとどめ、伽藍の跡地には礎石が多く残り在りし日の姿を伝える。「中尊寺」と共に世界遺産に登録され、国の特別史跡、特別名勝にも指定された名勝である。
800年あまり大切に保存されてきた平安文化の美とゆかりのイベント
800年の時を超え、当時と変わらぬ姿を湛える「浄土庭園」は、広々とした空間に豊かな水辺が美しく、樹木の自然や施された築山などが見事に調和し安らかな世界を作り上げている。仏の世界である「浄土」を地上に表現したと言われ、この景観は平安時代に書かれた日本最古の庭園書に基づいて作庭されたと言われており、学術的にも貴重な価値を持つ。毛越寺には、仏教行事のほか、季節ごとの祭り、藤原氏ゆかりの祭りなど多くの催しがあるが、5月の第4日曜日に催される「曲水の宴」は特別である。平安時代の装束をまとい、庭園を流れる「遣水」(やりみず)に盃を浮かべ、流れに合わせて和歌を詠む平安時代の遊びが再現され、平安貴族の典雅な生活を実感できることだろう。