東北に花開いた平安仏教文化の遺産「中尊寺」
標高約130mの丘陵にある、緑深い木々に囲まれた寺院「中尊寺」。「月見坂」と呼ばれる緩やかな坂の参道の、樹齢300年の美しい杉並木が人々を迎える。寺の歴史は古く、850年慈覚大師円仁(じかくだいし えんにん)によって開山され、1105年に奥州藤原氏初代清衡(きよひら)が寺を造営し、繁栄の時代を迎える。しかし、その後の戦乱の世において1189年藤原氏は滅亡し、庇護者を失った寺院は衰退をたどる中、1337年に起こった火災により多くの堂塔を焼失する悲劇に見舞われた。しかし、国宝建築1号の「金色堂」を始め、いくつかの文化遺産が焼失を逃れ生き延び、現存する文化財群は平安仏教美術の宝庫と称され世界遺産にも指定された。現在は、法要、儀式、行事が行われる「本堂」を中心に、藤原氏が残した国宝を含む文化財3000点を収蔵する宝物館「讃衡蔵(さんこうぞう)」、江戸時代に作られた能舞台で、日本の芸能史上貴重な重要文化財「白山神社能舞台」など多くの文化財が保存され、華やかな仏教文化の遺産を後世に伝え続ける
平安後期仏教美術の最高傑作「金色堂」
国宝「金色堂」は、平安時代後期から現存し、火災による消失を逃れた貴重な文化財遺産である。1124年藤原清衡(ふじわらのきよひら)により上棟され、当時の工芸技術の粋を尽くして作られた。“極楽浄土”の世界が表現された意匠の御堂は、金箔が押され黄金に輝き、螺鈿や象牙、宝石が施されている。阿弥陀如来を中心に観音・勢至の二菩薩、6体の地蔵菩薩、持国天、増長天を従える他に例のない仏像構成も見どころ。戦争で失われたすべての命の鎮魂と平和への藤原清衡の強い願いが込められた秘宝である。